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□#01夢の中の声は。
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−、−やと−−−。


微睡みの中で、聞き慣れた声が耳の鼓膜を微かに揺する。
それは俺が何時も守ってきた、大切な人の声にとてもよく似ていた。



「−−−誰だ。」



目を開いても、広がる闇の中には誰の姿もない。投げ掛けた問いにも、答えはなかった。
おもむろに手を伸ばしてみるも掴んだものはなく、手に収まらない空(くう)ばかりが虚しくすり抜けていく。


−−夜人。
また、弱々しいがはっきりと声が、俺を呼んだ。



(……あぁ、そうか。
似てるんじゃない、










この声は、彼奴だ。)




何も掴めずにいた手を引っ込め、そのままゆっくり重たい瞼を閉じた。
最後に見た彼奴の顔が−−心底安心しきった、子どもらしい無防備な寝顔が−−−まるで貼り付けられたように瞼の裏に浮かびあがる。




「……神、無。」




俺の大切な、たった一人の妹。



何故だか俺は、離れていても彼奴の声を聞くことができた。彼奴の、救いを求める声が。
そればかりじゃない、正確な位置だって把握することもできた。何も考えなくても、真っ直ぐ足は彼奴の元へ駆けていけた。

−−今だって、俺は傍で、彼奴を守ってやりたいのに。



途端、ずきりと胸に痛みが走った。
過去の古傷が痛む、そんな感覚。

幼い頃の記憶が、俺を縛りつける。




−−−神無……、





「何で、俺達だったんだろうな−−…。」



俺の二度目の問い掛けにも、答えはやっぱりなかった。





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